赤について
勧善懲悪を主題とした「南総里見八犬伝」で知られる江戸後期の読本作者の滝沢馬琴は薬屋も営んでいたそうだ。大作家が執筆の傍ら薬を造っていたのは奇妙な気がしないでもない。馬琴自身がよく患っていたのに加え、医者をしている息子の夫婦も病弱だったからだ。実利を兼ねていたわけだ。
ある時、そんな馬琴を慌てさせる事件が起こった。孫二人が死亡率の高かった天然痘にかかってしまったのだ。馬琴は懸命になって薬で手当てをする一方、周囲を赤で統一した。赤い木綿で着物や頭巾を作って身体を覆うとともに、寝具・蚊帳など周りを全て赤一色にした。中国医学の教えによって、患者さんを赤色で覆うと天然痘が軽くなると信じられていたためだ。
一般の人には迷信と思われるかもしれないが、1894年デンマークの医学者ニールズ・フインセンによって、天然痘が赤外線で悪化しやすく、それを遮る赤い色を使うと、悪くなるのを防げることが確かめられている。
さらに最近では赤色が病気に効果を発揮する事が、食品の世界で確認されつつある。
赤い色の食べ物には、動脈硬化、心筋梗塞、ガン等多くの病気に関わっている活性酸素を退治する抗酸化物質が豊富に含まれているからだ。例えば、鮭にはβカロチンの仲間であるアスタキサンチンという色素が含まれていて、それが強い抗酸性を発揮する。肉や脂肪を多く摂取する国ほど動脈硬化による狭心症や心筋梗塞等の病気が多く発生するとされている。
だが、それにも例外があった。
フランスだ。フランスは国民一人当たりの肉や脂肪の消費量が多いにも関わらず、心臓病による死亡率はなぜか低かった。この現象は、フレンチ・パラドックスと呼ばれ研究者を悩ませ続けた。その謎が最近になって解かれた。 フランス人が好んで飲む赤ワインに、ポリフェノールという抗酸化物質が多く含まれていることが判明したのだ。
我々も馬琴に習って赤の力を多いに利用したいものだ。
花の季節、真っ赤なチューリップを見て思ったエピソードです。
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